公開前規制の見直し 〜資本政策への影響〜
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1.
資本政策と公開前規制 |
公開を目指す企業として資本政策を検討する場合、商法等の法的規制、いわゆる公開前規制については十分注意しなければならない。公開前規制の見直しに関しては、東京証券取引所、大阪証券取引所、日本証券業協会の規則改正がなされ、平成13年9月4日に施行されることとなった。
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2.
公開前規制の見直しの背景 |
リクルート事件を契機として平成元年に導入された公開前規制(公開前の第三者割当の実施及び株券等の移動に係る規制)については、その後、企業の公開前の資金調達を過度に制約することのないよう若干の規制緩和が行われ、現在に至っている。
今回の見直しは、前回の見直しをより実効性のあるものとして、企業の資金調達・株式公開をより一層円滑化させるとともに、魅力ある投資物件を投資家に提供するとの観点から行われるものである。
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3.
公開前規制の規制緩和による資本政策への影響 |
(ア) 禁止期間の廃止
従来は、企業が事業上の必要から第三者割当等による新株発行、転換社債または新株引受権付社債の発行を行うと、その事業年度中の新規上場申請はできなかった。
改正後は、上場申請事業年度であっても、継続所有の確約を条件に資金調達が可能となる。
(イ) 転換社債等の強制転換等の廃止
従来は、成功報酬型ワラントを除いて、上場申請日の直前事業年度の末日までに転換社債の転換、新株引受権付社債の新株引受権が行使されていない場合は、新規上場申請はできなかった。
改正後は、転換または行使が行われていない場合でも、上場申請が受け付けられる。これにより出資者は上場が不確実なリスクのある段階での転換または行使が必要なくなった。
(ウ) 継続保有の確約不要のCB・WBの転換等による株式
従来は、継続所有の対象となる期間に割当てを受けた有価証券について、幹事証券会社等への預託が必要であった。 改正後は上場申請会社と割当先との二者間での継続所有の確約があれば済む。ただし、申請会社は割当先の継続所有に関し、今まで以上に管理が要求されることとなる。
(エ) 預託義務の廃止
従来は、制限期間中に第三者割当増資等により株式を取得した割当先は、新株発行の効力発生日以降公開日から6ヶ月を経過するまでの間(ただし、その期間が1年に満たない場合は1年間)、割当を受けた株式について、継続保有と幹事証券会社等への預託が義務付けられていた。
改正後は、預託義務がなくなり、上場申請会社と割当先の二者間での継続所有の確約があれば、済むこととなった。ただし、上場申請会社に対し、取引所・日本証券業協会等からの所有状況の照会に回答する義務が課せられる。申請会社にとっては、従来にくらべて厳格な株主管理が求められるとともに、株主の継続所有をどのような方法で確実なものとするかは今後の課題である。
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4.
まとめ |
今回の公開前規制の見直しで、IPOにむけての資本政策に大きな影響を及ぼすものは、(ア)禁止期間の廃止と(イ)転換社債等の強制転換等の廃止であろう。
今回の改正によって、高い資金需要のある企業にとって、一定の条件を満たせば、時期を選ばずファイナンスが可能となる。
転換社債、新株引受権の保有者は上場が不確実な段階での転換、または権利行使の必要がなくなり、資金負担のリスクが軽減されたといえよう。申請会社側にとって、より資金調達を受けやすくなったと見ることも出来る。
他方で資本政策の柔軟性が増したことで、上場日近くのファイナンス価格(株価)が高すぎれば、上場後の株価によっては、既存の株主に不利益を与えることにもなり、逆に低すぎれば、当該増資を引受けた株主に短期間でキャピタルゲインを獲得させる結果になる。
今回の改正により、規制の背景にあったリクルートコスモス事件以降の規制がそれ以前の自由度に近いものとなったため、株価の決定について、また、割当先の管理について、従来以上に申請会社側の注意が必要になったといえます。
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