簿記とは?
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簿記とは、経営活動の原因と結果を記録する手続きである。(解説)1/4 [⇒next] [HOME] 簿記や会計は、しばしば「ビジネス言語」と呼ばれます。決算書は、事業活動の結果を伝えるための、まさにコミュニケーション・ツールです。 ならば経営者として、コミュニケーション可能なレベルでの、最低限の会計知識は身に付けておく必要があります。ここでは、まず簿記の「言語体系」をざっくりと見ていきましょう。
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簿記で「伝えたい」こと |
そもそも、言語は何か「伝えたい」ことがあって、はじめて成立します。簿記は事業上の取引を記録するものですが、それによって一体何を伝えたいのでしょうか。結論を焦れば、簿記で伝えたいのは「取引の原因と結果」です。
「取引」には必ず二面性があります。原因と結果の二面性です(原因と結果はコインの裏表であり、見方によって裏と表の双方が、原因にもなれば、結果にもなります)。
今、「パソコンを買う」、「商品を売り上げる」、「銀行から資金を借り入れる」という3つの取引を例に考えてみましょう。更に単純化のために企業の取引がすべて現金取引だとした場合、上述の「取引」の例は、次のようにその二面性を表現できます。・「@パソコンを買ったので、A現金が減った」
・「@商品を売ったので、A現金が増えた」
・「@銀行から借入をしたので、A現金(預金)が増えた」 ところで現在、国や地方公共団体で、経理に企業会計の方法を導入しようという動きが始まっています。今までの経理の方法では、単純なキャッシュの増減しか記録せず、「原因と結果」を明らかにできないからです。
そのため、投資やサービスの効率性を測定できず、また、無駄な資産や膨大な負債の状況も把握できません。それにより、状況を掌握できずに対策が遅れ、更なる財政状態の悪化を招くという悪循環にはまっているのです。
一方、企業会計の簿記では、「原因と結果」を明らかにします。上の例で言えば、パソコンという投資の結果や、商品売上という収入の原因、資金調達の結果としての借入金残高を把握することができます。これにより、結果を見て、原因を分析し、経営の改善に結びつけることが可能になるのです。
簿記で伝えたいことは、経営活動の結果とその原因です。
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簿記の「名詞」や「動詞」 |
簿記の対象となる取引は無数にありますが、大きく5つの要素に分類することができます。資産、負債、資本、収益、費用の5つです。これらは、言語でいう「名詞」や「動詞」に相当します。
取引は、これら5要素の組み合わせにより記録されます。先の例でいえば、「商品を売ったので現金が入った」という取引は、売上という「収益の発生」と、現金という「資産の増加」の組み合わせにより記録されるのです。
5つの要素のうち、資産、負債、資本の3項目を貸借対照表項目と言います。一方、収益、費用は損益項目と呼ばれます。貸借対照表項目を集計要約したものが貸借対照表(バランス・シート:B/S)であり、損益項目を集計要約したものは損益計算書(P/L)と呼ばれます。
一般に、決算書もしくは財務諸表とは、この貸借対照表と損益計算書のことを指します。
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簿記の「構文」 |
個々の取引の記録は、「仕訳」と呼ばれます。仕訳は、取引の二面性を記録するべく、左右を一対にして記録します。たとえば、「商品を売ったので現金100が入った」という取引は、
(借方)現金 100 / (貸方)売上 100
というふうに仕訳されます。
それでは、表現の決まりごと(文法)について説明していきましょう。
まず、仕訳の左右の決まりからです。これは、資産を座標軸として、
「左側は資産のプラスを記録し、右側は資産のマイナスを記録する」
と理解すればいいでしょう。あとはその応用です。すなわち、
・負債は資産のマイナスだから、負債の増加は右側で記録
・費用の発生は資産(現金)を減少させる。現金の減少は右側で記録されるので、
対となる費用の発生は左側で記録
・収益の発生は資産(現金)を増加させる。現金の増加は左側で記録されるので、
対となる収益の発生は右側で記録
といった感じです。実際には、頭で考えるとまわりくどいので、下図のような左右の項目のパターンで理解する方が早いでしょう(この辺は、多分に慣れの問題です)。
左側(借方)
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右側(貸方) |
資産の増加
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資産の減少
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負債の減少 |
負債の増加 |
費用の発生 |
収益の発生 |
ここで、現金売上の仕訳を振り返ってみましょう。まず、現金が増えているので、左側に「現金100」と記録します(@)。次に、対となる売上を右側に「売上100」と記録するのです(A)。
(借方)@現金 100 / (貸方)A売上 100
なお、仕訳の左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)と言いますが、単に右・左で考えてもまったく差し支えありません。
この左右のパターンの組み合わせは、言語で言えば構文に相当します。たとえば、
・パソコンの現金購入:「資産の増加」と「資産の減少」の組み合わせ
・銀行借入れの実行: 「資産の増加」と「負債の増加」の組み合わせ
・給与の支払: 「費用の発生」と「資産の減少」の組み合わせ
などです。
ちなみに、左右一対で記録することには、もうひとつ意義があります。仕訳は、左右の金額が常に一致するので(というより一致するように記録するので)、集計の正確性を検証できるという点です。
たとえば今、すべての取引が現金売上だとすれば、現金の合計と売上の合計は一致するはずです。食い違った場合、少なくともいずれかの集計が間違っていることが分かります(なお、このように左右一対で記録する方法を「複式簿記」と言います)。
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簿記の「単語」 |
最後に、簿記の「単語」について見てみましょう。簿記の要素として、「資産」や「負債」など5つの要素を指摘しましたが、仕訳ではもっと細かい単位で取引を表現します。単に、「資産」や「負債」では、大雑把すぎて何のことだか分からないでしょう。
しかし逆に、その単位は実際の「単語」(たとえばパソコン)ほど細かくもなありません。単位が細かすぎると、集計が煩雑になるばかりか、細かすぎて「原因と結果」を伝えきれないからです。
簿記における「単語」は「勘定科目」と呼ばれます。たとえばパソコンは、一般に「工具器具備品」という勘定科目で表現します。したがって、パソコンの現金購入(100)を仕訳にすると、
(借方)工具器具備品 100 / (貸方)現金 100
となります。勘定科目は、集計記録のための要約単位です。
勘定科目は自由に設定できますが、コミュニケート可能な、一般的で内容を的確に示す要約レベルであることが必要です。現金、当座預金、売掛金などがその例です。
さて、パソコンを簿記の上では「工具器具備品」と表現すると述べましたが、これだけでは、「パソコンを買った」という事実は見えなくなってしまいます。実際、「工具器具備品」勘定で処理されるのはパソコンばかりではありません。応接セットや書架だって「工具器具備品」で処理されます。
そこで、集計上は要約した勘定科目を使う一方で、仕訳には「摘要」として取引の詳細を書き添えます。たとえば、上の例では、
(借方)工具器具備品 100 / (貸方)現金 100
〜(摘要)ノートパソコン(Let's Note CF-S21)1台購入
などと記録します。こうすることにより、必要に応じて、集計結果から個々の仕訳を探索すれば、取引の細かな「原因」まで特定できるわけです。
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