家計簿と簿記の違いは?
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簿記は、期間を区切って経営活動の結果とその原因を記録するところに特徴があります。
企業の経理を記録するのが簿記なら、家計を記録するのが家計簿です。
両者を比較することで、企業会計の特徴が見えてきます。
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「結果」を記録しない |
前の項目で述べたとおり、国や地方公共団体の経理では、「原因や結果」を記録できません。家計簿にも同様のことが言えます。現金の動きを中心に記録しているので、その結果、買ったものがどういう状況にあるのかを把握できないのです。
よほどの資産家でもない限り、財産目録を作成している家庭などまずないでしょう。
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「期間」の概念 |
企業会計のもうひとつの大きな特徴は、「期間」の概念が存在することです。
たしかに家計簿も月単位で作成します。しかし、たとえばカード払いでの買い物をわざわざ家計簿につけている人がどれくらいいるでしょうか。
もし、家計簿の目的が、「収入以上の買い物をしないようにし、家計を健全を保つ」ことにあるとすれば、カード払いの分も別途記録しておくべきでしょう。そうすれば、カード破産は避けられるはずです。 (カード破産する人は、通常の家計簿すらつけてないでしょうが・・・)。
これに対し、企業会計の場合は、支払が生じていなくても仕入れた月に記録をします。期間内に発生した取引は、キャッシュのやりとりにかかわらず、その期間の取引として記録をするのです。
さて、家計簿でカード払いの分の記録をしないのは、「面倒だから」でしょう。仮に記録をつけるなら、預金から引き落とされたときに記録すれば十分。
しかし、企業の場合には、「面倒だから」というのは言い訳になりません。家計は自分の財産の管理に過ぎませんが、企業は株主から出資してもらった資金をはじめ、「人様のお金」を扱っています。
(仮にオーナー会社であっても、会社を倒産させてしまえば従業員や取引先、その家族など非常に多くの人々に迷惑をかけてしまいます。) したがって、より厳密に経営状況を記録する必要があるのです。
現代の企業は、未来永劫、事業活動を継続していくことを前提・目的としています(大航海時代は、航海の都度会社を作り、航海終了とともに収支を精算していた)。そのため、定期的に期間を区切って、経営活動の結果と原因を見つめ、環境変化へタイムリーに対応していくことが求められているのです。
こうした「期間を区切った、経営活動の結果と原因の計算」を、「期間損益計算」といいます。この期間損益計算こそが、会計を複雑にし、一般の人を会計から遠ざけてさせてしまう元凶なのです。
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会計の複雑化 |
前頁で述べたとおり、「期間損益計算」こそが、家計簿と違って企業会計を複雑なものにしています。
その代表例が減価償却という概念です。家計簿では、5年使える30万円の大型テレビを買っても、「テレビを買った」でおしまいでしょう。しかし、企業会計ではそうはいきません。
30万円のテレビが、5年後使い物にならなくなったとき、その価値はゼロでしょう。では買ってから2年後、3年後の価値はどう考えればいいのでしょう。「中古品」ですから、決して30万円のままではないはずです。年を追うごとに徐々に価値が下がっていくと考えるのが自然でしょう。
そこで、テレビを買った時点では、とりあえず30万円の資産として計上し、その後たとえば年6万円ずつ価値を下げていくのです。つまり、「テレビ代」として年6万円ずつ各期の費用として負担させるのです。このような、資産を期間の費用として配分していく手続きを「減価償却」といいます。
では、なぜこのような面倒なことが必要なのでしょう。金額を大きくしてみれば実感できるはずです。
今、毎期の売上が20億円の会社があります。この会社が、5年使える50億円の機械を買ったとしましょう。ここで、減価償却をしなければ、機械に関する費用は初年度に一括計上され、初年度の業績は30億円の赤字(20億円−50億円)、2年目以降は毎期20億円の黒字(20億円−0)になります。
機械は5年使っているにもかかわらず、初年度とそれ以降の利益の計算は大きくぶれてしまいます。これでは正しく業績を伝えられません。このことは、感覚的に理解できるでしょう。
一方、機械は5年使っているのだから、毎期10億円ずつ費用化したらどうでしょう。毎期の損益は10億円の黒字(20億円−10億円)と計算され、平準化されます。こちらの方が合理的なはずです。なお、この「使える年数」のことを耐用年数といいます。
さて、もうひとつ期間損益計算に特有の概念として、引当金があります。これは、減価償却が費用を後の期間に配分するに対し、キャッシュアウトの前に費用を先取り計上するものです。
一例としては、賞与引当金が挙げられます。今、6月決算で、夏の賞与を7月に行う会社を仮定しましょう。ここで、ボーナスが1月から6月までのはたらきに応じて支払われるとします。この場合、たとえ支給が翌期の7月に行われるとしても、6月までの分なのだから6月決算の時点で費用計上するのが合理的でしょう。
そこで、支給を待たずに、6月時点でボーナスの金額を見積もって、費用として計上するのです。これを引当計上といいます。
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